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第845話

「おや、早かったね。夜食にするかい?」 「ああ、ありがとう」  アクセルはテーブルに着き、兄が用意してくれたサンドイッチに手をつけた。卵やハムなど、動物性たんぱく質が多かった。兄らしいと言えば兄らしい。 「宴、楽しかったねぇ」  兄が朗らかにマグカップに口をつける。 「一対一の死合いもいいけど、たまにはああいう乱闘もいいな。死合いとは全然違う刺激を得られるよ」 「たまには、な。しょっちゅうだとこっちの身がもたない」 「確かに、毎日のように腕飛ばされても困っちゃうね」  そんな他愛のない会話をしつつ、夜食を味わう。  食事を終えて片付けをして、さて寝るかとベッドに行ったら、思った通り寝室が綺麗に整えられていた。  やる気がないわけではないが、いろんな話を聞いてしまった手前、ちょっと複雑……と思っていると、兄は自分のベッドにぼふ……とダイブしてそのまま布団を被り始めた。 「? 兄上、何してるんだ?」 「何って、寝るに決まってるじゃないか。それ以外に何があるの?」 「え、だって……あれ?」  てっきり誘われるものとばかり思っていたのに、どういう風の吹き回しだろう。  困惑しているアクセルに、兄は小さく言った。 「ジークとユーベルにまた何か言われたんでしょ。それで余計なことで悩んでるんだ。お前の顔を見ればわかる」 「あ、いや……それは……」 「そういう時は、さっさと寝てしまうのが一番さ。ぐっすり寝て起きれば、『何であんなことで悩んでたのかな』って不思議になるから。……ほら、お前も早く寝なさい」 「…………」  仕方なく、アクセルはおとなしく自分のベッドに入った。暗い部屋で仰向けになっていると、すぐさま眠気が襲ってきて夢うつつになった。  それと同時に理性が薄れ、無意識に心の声を口にしてしまっていた。 「兄上……」 「うん、何だい?」 「もう、浮気……しないでくれよ、な……」

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