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第846話(アクセル~フレイン視点)
兄が小さく息を呑む音が聞こえた。夢うつつになっていても、耳は最後まで現実の音を拾っているようだ。
次いで兄はごそごそと自分のベッドを抜け出し、こちらにやってきて優しく囁いてきた。
「私はお前が生まれた時からお前一筋だよ。お前が側にいてくれるなら、他の誰かが入り込む余地はないさ」
「そう……なのか……」
「というか、そんなことで悩んでたのかい? そんなの心配するだけ損だよ。何も心配いらないから、早く寝て忘れなさい」
「…………」
その囁きが、何故か心に深く沁みた。理性が薄れているせいか、かえって素直に信じることができた。
「ん……そう、だな……」
何だか安心した。弟大好きな兄が、自ら進んで浮気なんてするはずがない。彼がそういうことをするのは、弟が側にいない時だけ。アクセルがヴァルハラにいなかった時期だけ。
でも、これからはずっと自分がいる……。
「おやすみ、アクセル。いい夢を見てね」
兄がそっと髪を撫でつけてくる。そう言えば子供の時も、こんな風に寝かしつけてくれたなぁ……などと、やや懐かしく思った。
そのままアクセルは穏やかな眠りについた。
***
――まったく……ジークとユーベルはいつも弟に余計なことばかり吹き込む。
弟が寝たのを確認してから、フレインも自分のベッドに戻った。
あの二人は気の置けない友人ではあるものの、時折嫌がらせっぽいことをしてくるから困る。うちの弟は繊細なんだから、変なことばかり言わないで欲しい。
今度会ったら文句言っておこう……などと考えつつ、フレインも目を閉じた。明日はピピも含めた三人で山に行く予定だから、早めに起きて準備しないと。
あれこれ考えて眠ったら、妙な夢を見た。
三人で山に遊びに行くはずが、何故かジークやユーベル、ミューまでもが一緒についてきた。あまりにリアルだったから、朝起きて一瞬夢なのか現実なのか迷ってしまうくらいだった。
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