846 / 2209

第846話(アクセル~フレイン視点)

 兄が小さく息を呑む音が聞こえた。夢うつつになっていても、耳は最後まで現実の音を拾っているようだ。  次いで兄はごそごそと自分のベッドを抜け出し、こちらにやってきて優しく囁いてきた。 「私はお前が生まれた時からお前一筋だよ。お前が側にいてくれるなら、他の誰かが入り込む余地はないさ」 「そう……なのか……」 「というか、そんなことで悩んでたのかい? そんなの心配するだけ損だよ。何も心配いらないから、早く寝て忘れなさい」 「…………」  その囁きが、何故か心に深く沁みた。理性が薄れているせいか、かえって素直に信じることができた。 「ん……そう、だな……」  何だか安心した。弟大好きな兄が、自ら進んで浮気なんてするはずがない。彼がそういうことをするのは、弟が側にいない時だけ。アクセルがヴァルハラにいなかった時期だけ。  でも、これからはずっと自分がいる……。 「おやすみ、アクセル。いい夢を見てね」  兄がそっと髪を撫でつけてくる。そう言えば子供の時も、こんな風に寝かしつけてくれたなぁ……などと、やや懐かしく思った。  そのままアクセルは穏やかな眠りについた。 ***  ――まったく……ジークとユーベルはいつも弟に余計なことばかり吹き込む。  弟が寝たのを確認してから、フレインも自分のベッドに戻った。  あの二人は気の置けない友人ではあるものの、時折嫌がらせっぽいことをしてくるから困る。うちの弟は繊細なんだから、変なことばかり言わないで欲しい。  今度会ったら文句言っておこう……などと考えつつ、フレインも目を閉じた。明日はピピも含めた三人で山に行く予定だから、早めに起きて準備しないと。  あれこれ考えて眠ったら、妙な夢を見た。  三人で山に遊びに行くはずが、何故かジークやユーベル、ミューまでもが一緒についてきた。あまりにリアルだったから、朝起きて一瞬夢なのか現実なのか迷ってしまうくらいだった。

ともだちにシェアしよう!