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第848話
これ以上引き離されたら見失ってしまうぞ……と焦っていると、
「ぴー!」
ピピの走っている先に、同じような白いうさぎの集団が見えた。その集団も、ピピが走って来ることに気付いたみたいだった。
ピピは集団に真っ直ぐ突っ込んでいくと、感極まって鳴き始めた。
「ぴーぴー!」
「ぴぴ、ぴー!」
他のうさぎも、歓迎するかのように鳴き始める。みんなピピに寄り添い、嬉しそうに耳をパタパタ上下させている。
それを見たら、次第に追いかける足が止まってしまった。
――そうか……そうだよな……。
今までずっと失念していたが、ピピにも親や兄弟がいるのだ。あんな風に、もともとは同じうさぎ達と暮らしていたのだ。
そんなこと考えもせず、当たり前のようにうちでペットのように飼っていたことがだんだん恥ずかしくなってきた。ピピだって、うちで一人ぼっちで過ごすより家族と一緒に山で暮らした方が幸せに決まっている。
「……兄上、帰ろう」
アクセルはくるりと背を向け、走ってきた道を引き返した。
兄は驚いたように目を見開いた。
「えっ? 帰っちゃうの? ピピちゃんは?」
「いいんだ。家族が見つかったなら、俺たちが出て行くのは野暮ってものだろ」
「それは……」
「家族のありがたみは、誰よりもわかっているつもりだよ」
これでいいのだ。戦士には戦士の、うさぎにはうさぎにふさわしい生活がある。少なくとも、ピピがいるべき場所はうちじゃない。
――さよなら、ピピ。これからは家族と幸せに暮らすんだぞ。
ちょっと泣きたくなってきたけど、気のせいだ。アクセルはあえて振り返ることをせず、ひたすら元来た道を歩いた。
途中、目印をつけたヒノキの林を通りかかったが、何だか切る気力が失せてしまい、目印のロープを外して帰った。庭に露天風呂を作りたいというのも、ピピと一緒に湯浴みできたらと思ったからだ。ピピがいないのなら、わざわざ作る必要もない。
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