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第849話
家に帰り着き、アクセルはふと庭を眺めた。
乗馬できるくらい広い庭の隅に、大きなうさぎ小屋がある。あれも雨風に晒されてだいぶ傷んできていた。露天風呂を作るついでに新しく作り直そうかと思っていたが、その必要もなくなってしまった。
――あれも、近いうちに取り壊さないとな……。
そんなことを考えながら部屋着に着替えていると、兄がちらりとこちらを見た。
「挨拶くらいしていけばよかったのに」
「したら別れが惜しくなるだろ。こういう時は、あまり話をしない方がいいんだよ」
「そうかい? お前がそう言うなら、それでいいけどね」
「……それより、兄上には無駄足をさせてしまったな。特に収穫もなくてつまらなかったかもしれない。すまなかった」
「いや、私はお前と山歩きできて楽しかったよ」
「そうか……ならよかった」
アクセルは視線を逸らし、ごまかすように言った。
「早めに帰って来てしまったから軽食も消費してなかったな。それは昼ご飯の代わりにしよう。それから後で市場に買い物行ってくる」
「ああ、うん……」
「じゃあ、今から昼食作り直すよ。焼きおにぎりと雑炊、どっちがいい?」
そう言いつつキッチンに入ったら、兄が目を細めてこう言った。
「……お前、かなり無理してるだろう」
「えっ……?」
「急にピピちゃんがいなくなって寂しいんでしょ? 別にそんなの隠すことないじゃないか。寂しいなら寂しいって言った方がいいよ」
「……そりゃあ、全然寂しくないなんて言ったら嘘になるよ。でも、あの状況でピピを引き留めるわけにはいかないだろ。せっかく再会できた家族と引き離すことになるんだぞ」
「そうとは限らないけどね。ピピちゃんがどういう選択をするか、それは本人しかわからないんだし」
「……だとしても、ピピがいるべき場所はここじゃないよ」
アクセルは自嘲気味に笑った。滲んできた涙を、どうにかこうにか引っ込める。
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