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第851話

「ピピ!? どうしてここに……何で帰ってきたんだ!?」 「ここ、ピピのおうち。ピピがかえるの、ここ」 「えっ……? でもピピ、山で家族見つけたよな? そっちはいいのか?」  うん、と頷いてくるピピ。  怪訝に思って、アクセルは身体を起こした。せっかく会えた家族と離れるなんて、どういうことなのか理解できなかった。 「ピピ、本当にいいのか? 家族と離れ離れになっても。俺はずっとここにいるけど、家族とは今度いつ会えるかわからないだろう?」 「ぴー」 「うちみたいな何もない庭で、うさぎ一匹で寂しくないのか? 俺はこんなだから、留守番することも多いぞ? 身体洗ってやるのも忘れるくらいだし……」 「ぴ……」 「本当に後悔しないか?」  正面から真剣に問いかけたら、ピピも真っ直ぐにこちらを見つめてきた。そしてたどたどしい口調でこう言った。 「ピピ、アクセルすき。アクセルといっしょがいい」 「え……」 「ピピ、アクセルのごはんすき。おうちもすき。おいてかれたら、かなしい」 「ピピ……」 「ピピ、ずっとここにいる」  甘えるようにふわふわの身体をすり寄せてくるピピに、思わず涙が出そうになった。  修行にかまけて時々世話が疎かになるような飼い主を、ピピは好きだと言ってくれる。家族と一緒に暮らすより、ここでの暮らしの方がいいと言ってくれる。  アクセルは白い毛並みに顔を埋め、やや割れた声で言った。 「ありがとう、ピピ……。今度とびっきり美味しい野菜スープ作ってあげるよ……。うさぎ小屋も、もっと丈夫で快適なものに作り直すし、いつでも水浴びできるような露天風呂も用意するからな……。あと、家族に会いたくなったらいつでも言ってくれよ……?」 「ぴー♪」 「あ……そう言えば、夕食はどうしたんだ? 何か食べたか?」  まだ、とピピは首を横に振った。  アクセルは顔を上げ、よしよしとピピを撫でてやった。 「わかった、今から夕食作ってくるよ。ちょっと待っててくれ」  すぐさまキッチンに戻り、食材を切り刻む。ザクザクと切り刻む音がいつもより心地よかった。

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