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第852話
「ピピちゃん、帰って来てくれてよかったねぇ」
と、兄がキッチンに入って来る。
「もっとも、私は近いうちに帰ってくるだろうとは思ってたけど」
「えっ? 何でだ?」
「だって、ピピちゃんにとってはここでの暮らしはメリットばかりだもん。しっかりしたうさぎ小屋で雨風は凌げるし、待っていれば自動的に美味しいご飯が出て来るし、狼を気にせずに走り回ることもできる。これから露天風呂も作ってくれるっていうんだから、ピピちゃんにとっては至れり尽くせりなんじゃないかな」
「そ、そういうことだったのか……」
言われてみれば、山で家族と暮らすよりも遥かに快適で危険性は少ない。もともとピピは臆病な性格だし、寝ている間に狼に襲われないというだけでも十分すぎるメリットなのかもしれない。
兄は笑いながら続けた。
「まあ理由はどうあれ、こっちを選んだのは事実なわけで。あまり深く考えなくていいんじゃないかな。これまで通り愛情をもって接してあげれば、ピピちゃんはきっと幸せさ」
「……だといいけどな」
ちょっと苦笑しつつ、アクセルはひたすら野菜を切り刻んだ。今日見つけたヒノキの群生地、覚えてるだろうか……と少し心配になった。
***
その夜。寝間着に着替えてベッドで眠ろうとしたら、さも当然ように兄が掛け布団の中に潜り込んできた。今夜はそういう気分なんだろうか。
「お前、明日は何か予定あったっけ?」
こちらの髪を指で弄りながら、兄が聞いてきた。
「私は当分仕事らしい仕事がなくてヒマだから、またどこかに遊びに行きたいなぁ」
「死合いもないのか?」
「スタジアムで公式死合いが行われるのは、多くても一日十回だからねぇ。エインヘリヤルは三〇〇〇人近くいるし、早々順番も回ってこないよ」
「そうか……。じゃあ、今日目をつけておいたヒノキでも切りにいくか」
場所がわかるか怪しいけど……と、心の中で付け足す。
すると兄はにこりと笑って寝間着の中に手を突っ込んできた。
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