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第854話

「じゃあお前、これを直角に切ってごらん」  と、兄が一本の丸太を渡してくる。  言われるがまま、それを地面に置いていつもの要領で小太刀を振り下ろした。思ったよりスパッと切れたので爽快感はあった。  だが……。 「……お前、ふざけてる?」  兄が呆れた目線を向けて来る。  アクセルが切ったヒノキは、切り口が直角どころかナナメ四十五度くらいになっており、とてもじゃないが加工はできそうになかった。 「今のは見なかったことにしてあげるから、もう一度やってごらん」 「あ、ああ……」  もう一度小太刀を振り上げ、今度は真っ直ぐに切ることを意識して振り下ろす。けれど垂直には程遠く、切り口も歪な状態でひび割れてしまった。  アクセルは慌てて言った。 「ふ、ふざけてないぞ! 本当に直角に切ろうとしたんだ!」 「え、本気でやってこれ? お前、本当に直角に切れないの?」 「ええと、その……今まで『直角』ってことを意識して切ったことなかったから……」 「でも、バルドル様のところでもお手製のポストとか作ったりしてたんでしょ? その時はどうしてたの?」 「あの時は、バルドル様があらかじめ切り出された木材を用意してくれたから……」 「ははあ、道理で今まで困らなかったわけだ」 「で、でも戦う時だって『こいつは直角に切ってやろう』とか考えないじゃないか。切れればナナメに刃が入ったって問題ないだろ?」 「まあ、戦う時はそうだね。でもこれじゃ、綺麗に首を落とせないんじゃないかなぁ」  さすがにこれができないとは思わなかった、と兄が言うので、アクセルはちょっと口を尖らせた。 「じゃあ兄上が見本を見せてくれよ。兄上なら綺麗にスパッと直角に切り出せるんだろ?」 「もちろんだよ。これは基本中の基本だからね」  そう言って、兄が愛用の太刀を構える。そして勢いよく抜刀して丸太に振り下ろした。

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