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第855話
兄の太刀筋は見惚れてしまうほど美しく、気付いたらスパッと一刀両断されていた。
「はあ……さすがだな、兄上。何度見ても素晴らしいと思うよ」
「ありがとう。……でも、これでちゃんと直角に切れてなかったら意味がない」
そう言って兄は、先程切った丸太を持ち上げ、切り口を下にして平らな地面に立てた。
太くて長い丸太は一切傾くことなく、地面に対してピシッと垂直に直立した。
「すごい……。本当に直角になってるんだ……」
「切り口が少しでもナナメになってたら、丸太は垂直に立たないからね。これで直角に切れたかどうかわかるよ」
「そうだな……。しかし、どうやったらそんなに綺麗に切れるようになるんだか……」
愛用の小太刀を眺める。
かなり今更だが、太刀筋についてはさほど気にしてこなかった。「別にどこを斬ろうが、敵を戦闘不能にできているなら結果オーライだろう」的な感じで軽く考えていた。首を落とすにしても、「切り口が汚い」とかそんなの考えたこともない。
――しかし、長年沁みついた太刀筋の癖みたいなのは、そう簡単には直らないんじゃないか……?
小太刀を握り始めて十年以上は経過しているが、今からそんな太刀筋を矯正することなどできるんだろうか。
そもそも、強くなるのに「正確な太刀筋」というのが本当に必要なんだろうか。確かに兄のような美しい太刀筋には憧れるけど、「斬れればどこでもよくないか?」などと考えているのは自分だけだろうか……。
兄は顎に手を当てて、言った。
「やり方はシンプルだよ。まず丸太を二本立てて、その間を数センチ開ける。最初は三センチくらいから始めればいいかな。で、その隙間に向かって素振りを続ける。素振り中に刃が丸太に触れてしまったら、それは垂直に振り下ろせていないっていう証拠だからすぐにわかるよ」
「ははあ、なるほど」
「ただし、お前の場合は大幅な矯正が必要だろうから、本気でこれをやろうとしたら丸太がボロボロになるだろうね」
「う……そ、そうだよな……」
アクセルは小さく肩を落とした。
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