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第856話

 さっさとヒノキを加工して露天風呂を作る予定だったのに、計画が思いっきり狂ってしまった。さすがにここまでいい加減な太刀筋をしているとは思わなくて、なんだか少し落ち込んでしまう。 「まあ、今問題が発覚してよかったじゃない。修行のきっかけにもなるし」 「はあ、まあ……な」 「太刀筋が直れば、もっとランクが上がること間違いなしだよ。というわけで、頑張ってね」  そう言って兄は、ご丁寧にもう一本の丸太も地面に立て、家に戻っていった。 「太刀筋か……」  アクセルは直立した二本の丸太を眺めた。  丸太の間は本当に数センチしかなく、指が通るか通らないかのギリギリの隙間である。  試しに何度かその隙間に向かって素振りしてみたのだが、どちらの小太刀も途中で丸太に突き刺さってしまい、どうしても上手く振り抜けない。 「……ぐぬぬ」  ナナメに刺さった小太刀を引き抜きながら、アクセルは眉根を寄せた。  ――ああもう……全然ダメじゃないか。  簡単に太刀筋矯正などというが、これはなかなか骨が折れそうだ。特に自分の場合は二振りの小太刀を扱っているため、武器ひとつよりも時間がかかる。  とりあえず、右手から直してみるか……と右手だけでせっせと素振りすることにした。 「アクセル、しゅぎょうちゅう?」  ピピがとことこと側に寄って来て、じっとこちらを見つめてくる。  アクセルはひたすら素振りをしながら言った。 「ピピ、ごめんな。俺、武器振るうの下手くそだったみたいだ。早く露天風呂作ってあげたかったのに、申し訳ない」 「ぴ……」 「でも、頑張って垂直に切れるようになるからな! そしたら露天風呂もうさぎ小屋も作れる。それまで待っててくれ……、って、あっ」  話している最中、また刃が丸太に噛んでしまった。こんな調子じゃ、あっと言う間に丸太がボロボロになってしまいそうだ。  先が思いやられるなぁ……と少し落ち込んでいたら、ピピがふわふわの身体をすり寄せてきた。そしてたどたどしく言った。

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