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第857話

「アクセル、がんばってる。ピピ、おうえんしてる」 「ピピ……」 「アクセル、すき」  純粋に応援してくれるピピに、違う意味で涙が出そうになった。傍目には決していい飼い主とは言えないのに、ピピはこうやって慕ってくれている……。 「ありがとう、ピピ……。本当にありがとう、嬉しいよ」 「ぴー♪」 「よし、まずは右手からだな。頑張るぞ」  それ以降、アクセルはただひたすら素振りを繰り返した。  最初は全然上手くいかなくてすぐに丸太が削れてしまい、兄に新しい丸太を切り出してもらっていたのだが、一週間くらい経つと三センチの幅なら傷がつかなくなってきた。これは明らかな進歩だ。単調な素振りばかりでいい加減心が折れそうだったが、効果が出ているようで少し安心した。  ――次は二センチに狭めてみよう。  そうやって徐々に間を狭くしていく。これも十日くらい繰り返したら、真っ直ぐ振り下ろせるようになってきた。ついでに素振りの速度も上がり、体力も保つようになった。 「お前、今まで無駄な力を使ってたんだね」  夕食の時、兄がそう解説してくれた。 「武器を振るう時は、振るいたい方向に力をかけるのが一番エネルギー効率がいい。でもお前は今まで、垂直に切るべきところをナナメに切っちゃったりして、力の方向がズレていただろう? それだと結果的に力が無駄になるわけ。太刀筋矯正ってのは、力のかけ方を正常に戻すことでもあるんだよね」 「そうなのか……。そんなの、今まで考えたことなかったよ」  兄が軽々と丸太を切れるのは、力のかけ方が正確だったからだと思い知った。  ――確かに、垂直に力を加えているのに刃がナナメに入ってしまったら、力が分散して上手く斬れなくなるよな……。  力の向きと刃の方向を一致させること。それが太刀筋矯正の本当の目的である。  兄はにこりと微笑んだ。 「お前は本当に頑張り屋だね。太刀筋もだいぶよくなってきた。この調子なら、近いうちに垂直に切れるようになるよ」 「ありがとう。頑張るよ」

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