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第858話

 少しずつでも成果が出ているのが嬉しくて、アクセルは次の日もせっせと素振りを続けた。  だが、隙間を一センチまで狭めたところで、そこで頭打ちになってしまった。 「だあああ! また引っ掛かった!」  ナナメに噛んだ小太刀を、力任せにヒノキから引き抜く。  幅一センチに狭められたのが約二週間前。そこから毎日片手ずつ素振りを繰り返しているのだが、どうしても上手くいかなかった。そのせいでヒノキの丸太もだいぶ減ってしまって、新しく山に採集しに行く羽目になった。  ――というか、これ以上どうやって修行すればいいんだろう……。  汗を拭いながら、一センチの幅を眺める。  こうして見ると、一センチというのはかなり狭い。ゆっくりと小太刀を通しても、気を抜いたらヒノキに触れてしまうくらいだ。これを素早く振り下ろすのは正直、相当難しいと思う。  ここまでできたのなら、戦士としてはもう十分な気も……。木材だって直角にならなかったら、切り出した後やすりで削ればいいんだし……。  ……などと弱気な方向に考えが及びかけたところで、兄が声をかけてきた。 「ねえアクセル、今度バルドル様のところに行かない?」 「えっ?」 「実はさっきバルドル様から手紙が届いてね。今度久々に友人を招いて食事会をするから、予定がないなら顔を見せにおいでって」 「そうなのか……バルドル様が……」  バルドルには以前、非常に世話になった。人質として屋敷に行った自分を客人としてもてなしてくれて、他にもいろいろと気を遣って優しくしてくれた。自分の復活の際も、オーディンへの面会を取り付けてくれたりと、兄に力を貸してくれたという。  そんな人からの招待なら、断る理由はない。 「ああ、もちろん出席するよ。俺も久々にバルドル様に挨拶したい」 「よかった。来週の半ばだから、覚えておいてね」  私が忘れちゃうから……と冗談めかして笑い、兄は家に戻っていった。

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