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第859話
――バルドル様か……お会いするのは久しぶりだな。
雑用や修行に追われて、復活してから挨拶に行っていなかった。本当はもっと早く、自分から訪ねなければいけないところ、逆に招待されてしまった。ちょっと申し訳ない。
「バルドル様の食事会なら、当然ホズ様もいそうだよな。なあピピ?」
「ぴ?」
アクセルは、近くで修行の様子を眺めているピピに話を振った。
ピピは丸太の山にふんふんと鼻を寄せ、ヒノキのいい香りを堪能しているところだった。
「ピピはバルドル様って知ってるか? オーディン様のご子息で、光の神って言われてる優しい方なんだが」
「ぴー……」
「見た目も綺麗だけど、性格も穏やかでおっとりしていてな。ちょっと兄上に似たところがあるんだ。人質に行った時は随分世話になったよ」
「ぴー」
「で、その弟にホズ様っていう方もいるんだけど、これが恐ろしいほど強い人で。盲目なのに盲目とは思えないくらい隙がないんだよ。目に頼らない戦い方を教えてくれたのは、ホズ様なんだ」
と、一方的に喋り続ける。ピピは「ふーん?」といった様子で話に耳を傾けていた。
アクセルは一センチの隙間に向かって、ゆっくり小太刀を通しながら言った。
「ホズ様だったら、太刀筋矯正のいい修行方法も知ってるかもしれないな……。お会いした時に聞いてみるか」
「ぴー」
「ま、その代わり思いっきりしごかれてボコボコにされるかもしれないけどな。ホズ様、優しいけど容赦ないから」
「しってる」
「……えっ?」
いきなりピピがそう言ったので、アクセルは思わず手を止めた。
「ピピ、ホズ様のこと知ってるのか?」
「しってる、ちょっとだけ。つよくなるいずみで、みたことある」
「強くなる泉って……」
チラリと小耳に挟んだ覚えがある。確か「ミーミルの泉」だったか。その泉の水を飲むと格段に強くなれるという、魔法の泉だ。
ただし片目を失ったり盲目になったりと、何かしらの代償はあるらしいが。
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