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第861話

 本当に残念だけど、今回は諦めるしかないかな……と思っていると、 「何言ってるの? 死合いなんて一瞬で終わらせればいいじゃない」  兄がごく当たり前の口調で言ってくるので、目が丸くなった。それと同時に少し呆れた。 「あのなぁ……対戦相手はほぼ俺と同レベルの戦士なんだぞ? 同レベル同士の戦いは、そんな一瞬で終わらないだろ」 「そんなことないと思うよ。一時間も二時間も戦ってるわけじゃないんだから、なるべく早く終わらせて食事会に参加すればいいだけのことさ」 「いや、だから……例え早く終わっても、怪我の治療があるじゃないか」 「何? お前、そんなとんでもない怪我をするつもりなの? ユーベルの舞じゃあるまいし、かすり傷くらいで終わらせなさいよ」 「……そんな無茶な」  ムチャ振りすることの多い兄だが、さすがにかすり傷だけで終わらせるのは自信がない。一応相手は自分よりランクの高い戦士だし、最悪の場合、負けてしまう可能性もあるのだ。兄のように楽観視はできない。  すると兄は、じっとりとこちらを見て言った。 「お前、バルドル様の食事会に参加したくないのかい?」 「いや、もちろん参加したいよ。でも死合いとかぶってちゃどうにもならな……」 「だったらつべこべ言わず、早く死合いを終わらせてくるんだよ。いつもより鍛錬を頑張るとか、対戦相手の戦い方を調べるとか、対策はいくらでもあるでしょ。何もしないうちから諦めてどうするの」 「す、すみません……」 「お前はやればできる子なんだから、ちゃんと頑張りなさい。お兄ちゃん、期待してるよ」  言いたいことだけ言うと、兄は立ち去って行った。  一人残されたアクセルは、予定表と睨めっこしながら、思った。  ――まあそうだよな。何もしないうちから諦めるのは早いか。  兄の言う通り、死合いまでにできることはたくさんある。まずは対戦相手を調べることから始めてみよう。  そう思い、早速ある場所に向かった。

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