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第862話

「やっ! ほっ! はぁっ!」  ヴァルハラの公式鍛錬場には、今日も多くの戦士が集まっていた。  ランクが高くなれば、ケイジのように自分専用の鍛錬場を持つことも可能だが、大抵の戦士はここで鍛錬している。鍛錬に必要な武器や道具もほとんど揃っているので、意外と便利なのだ。  ――次の対戦相手は、確かアロイスとかいう戦士だったな……。  会ったことがないがどんな人だろう。ここには来ているだろうか。もし来ていなかったとしても、ある程度の情報は掴んでおかないと。  そう思い、偵察がてら鍛錬場をゆっくりランニングしてみた。  丸太をぶんぶん振り回している者、重いバーベルを何度も持ち上げている者、甲冑を着込んだまま走り回っている者、弓矢の練習をしている者等、いろいろな人がいる。  中には妙な衣装を着ながら、音楽に合わせて踊っている者もいた。……ユーベル歌劇団にでも入りたいんだろうか。 「あれ、アクセルじゃん。こっちの鍛錬場に顔を出すとか、久しぶりだね」  鍛錬場を見回っている最中、チェイニーに声をかけられた。彼は鍛錬をしているのではなく、鍛錬場の管理当番に当たっているみたいだった。 「ああ、チェイニー。ちょうどいいところにいた」  これ幸いと足を止め、アクセルは彼に近付いた。  チェイニーは情報通だ。対戦相手・アロイスのこともある程度知っているに違いない。どんな人なのか教えてもらおう。 「チェイニー、アロイスって戦士のこと知ってるか? 俺の次の対戦相手なんだ」 「へー、そうなんだ? アロイスって確か甲冑好きの豪快な人だよね。オレもそこまで詳しくないけど、なんでもランゴバルト様に憧れてるらしいよ」 「そうなのか……」 「で、ランゴバルト様の甲冑を真似て、自分も黒塗りの豪華な甲冑を着ているんだってさ。黒塗りの甲冑を着ている人なんてそんなに多くないから、鍛錬場にいればすぐにわかるよ」 「なるほどな。ちょっと捜してみるか」  黒塗りの甲冑、黒塗りの甲冑……と、頭の中で反芻する。

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