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第865話

 危ないなぁ……と思いつつ普通に避けようとしたのに、何故かアクセルが退いた方向に台車が曲がって来た。台車を押している本人も、自分の進んでいる方向がわかっていないようだった。 「ちょ、おい! 止まってくれ! もっとよく前を確認し……」  呼びかけても台車は一向に止まる気配を見せない。どんどんこちらに近づいてくる。  仕方なくアクセルは素早く台車の背後に移動し、押している人物を強引に引き留めた。 「だから! もっと前を見て台車を押してくれってば!」 「うおぉっと!」  唐突に引き留められたその人は、仰天したように飛び上がって台車から手を離した。  絶妙なバランスで積み上げられていた荷物は、台車が傾いた途端一気に崩れ落ち、見事にバラバラになって地面に散らばってしまった。武器や防具の他に、数種類の甲冑も積まれていたらしい。 「だああぁ! 俺の荷物が大変なことにぃぃ!」 「えっと……すまない。でも前が見えていないのは危ないんで……」 「あんた、何すんだよぉぉ! ちゃんと荷物積み上げるの手伝えよなぁぁ!」 「は、はい……すみません……」  彼の迫力に押され、慌てて散らばった荷物を台車に積み直した。  武器や防具と一口に言っても、肝心の武器は身の丈以上もある大剣、盾も身体がすっぽり隠れるほど大きく、甲冑も様々な種類が揃っていた。それがいくつも台車に積み上がっていたのだから、確かに一度バラバラになったら積み直すだけで一苦労である。  ――というかこれ、どれもこれも重すぎるんだけど……!  自分も決して非力ではないと思っていたのに、これに関しては一人で持ち上げられないくらい重い。本気で腰が抜けるかと思った。一体何キロの荷物を積んでいたのか、よく台車が潰れなかったなと感心するレベルだ。 「……あ」  荷物の中に、黒塗りの兜を見つけた。羽根飾りはついていなかったものの、おろしたてなのか、陽光を受けてキラリと光っている。

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