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第866話

 ――黒塗りの甲冑……?  アクセルははたと本人に目をやった。  台車を押していた男性は思った以上に小柄だったが、重いはずの荷物をひょいひょい台車に積み上げている。 「あの……きみ、もしかしてアロイスか……?」 「あん? そうだけど、なんでオレのこと知ってるんだ? あんた誰?」 「俺、アクセルだよ。次の死合いの対戦相手だ」 「ああ、あんたが噂のアクセルか! フレイン様の弟で、やたらとお人好しって聞いた事あるぞ」  やたらとお人好し……それは誉め言葉なんだろうか。 「なんだー、オレの次の死合い相手ってあんただったのか。知らなかったぜー」 「知らなかったって……今週のスケジュール確認しただろ?」 「あー、オレそういうのあまり興味なくてさ。死合いと仕事がいつ入ってるかだけわかればいいんだ」 「……そうなのか? 対戦相手のことはあまり気にならないのか?」 「ならねぇなー。誰が来ようが関係ねぇ。全力でぶっ飛ばすだけだぜ!」  ぐっ、と拳を固めるアロイス。裏表のない笑顔を見て、チェイニーが彼を「豪快な人」と評価したのがわかる気がした。  ――こういう考え方、嫌いじゃないな。  誰が相手だろうが小細工なし。真っ向から正々堂々戦う。とても気持ちのいいヤツだ。  アロイスが相手なら、いい死合いができるに違いない。  ――それはともかく、思ったよりずっと小柄だな……。  改めてアクセルは、アロイスを眺めた。  身長は自分より頭ひとつ分小さく、一六〇センチ程度しかないと思われる。さすがにミューよりは大きいけれど、小柄であることは変わりなかった。ランゴバルトに憧れているというから大柄の戦士だと思っていたのに、これでは甲冑を着ても動けないのではないか。 「ええと……普段からこういう武器使ってるのか?」  探るように、アクセルは大剣に視線を向けた。この剣だけでもアロイスと同じくらいの長さがあり、生半可な腕力では数回素振りしただけで腕が捥げそうである。少なくとも、公式死合いで扱える代物ではない。 「おうよ! オレ、こういうデカい武器が好きなんだ! なんか迫力あるし、かっこいいだろ?」  そう言ってアロイスは、大剣の柄を掴んだ。

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