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第867話
こちらに見せるようにブン、と振り回すので、危うく刃が当たりそうになった。こんなのが直撃したら一発で棺送りになりそうだ。
「ちょ、危ないって! 少しは周りを見てくれ!」
「おっと、悪い悪い。それよりホラ、この剣かっこいいだろ?」
と、言っている側からブンブン振り回してくるアロイス。一振り一振りはさほど早くなかったけれど、それでもこの大きさの剣を当たり前に素振りできるところに舌を巻いた。
――す、すごい馬鹿力だな……。
体格に似合わない怪力っぷりである。ミューといい、アロイスといい、何故ヴァルハラには小柄な怪力戦士が多いのか。ランゴバルトのような正統派の大男の方が珍しい気がしてきた。
「ちょっと重いけど、その分丈夫で強力なんだぜ。その気になれば岩も砕けるんだ。すごくねぇか?」
「わ、わかったからここで素振りするのはやめてくれ!」
「そうか? じゃ、今度鍛錬場でじっくり見せてやるよ」
アロイスが台車に大剣を置いたので、ちょっとホッとした。
片付けを再開しながら、アクセルは言った。
「それだけ力が強かったら、もっとランク上がりそうだな」
「おうよ! オレはまだまだ強くなるぜ! いつかランゴバルト様みたいな無敵の戦士になってやるんだ!」
「そうか。俺もいつか兄上に追いつきたいと思ってるんだ」
「おお、いいじゃん! 明確な目標があると頑張れるよな!」
そう言って、アロイスがバシバシ肩を叩いてくる。その力さえも無駄に強くて、筋細胞が潰れるんじゃないかと思った。
――でも、死合いをする以上はどちらか一方は負けてしまうわけで……。
死合いで負けたらランクが下がる。目標にも遠ざかってしまう。
早く兄に追いつきたいという目標を譲るつもりはないけれど、アロイスだって同じように「ランゴバルトのようになりたい」と思っているのだ。
そうやって、同じような想いを持っている二人がぶつかり合った場合、どちらか片方は夢を諦めなければならない。相手の夢を踏みつけにして、自分の夢を実現させなければならない。
そう考えたら、何だかやりにくくなってきた。
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