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第870話
「これ、生前からよく使ってたヤツなんだ。ちなみに名前は知らねぇ」
と、アロイスがテキトーな説明をしてくれる。
「これにはさ、片面に薄い磁石が貼ってあるんだ。で、その磁石にノコギリを添わせて木をゴリゴリ切っていくわけよ。そうすると、ちゃんと真っ直ぐ切れるようになるんだ」
「はあ、なるほど……」
説明がざっくりすぎてわかりづらかったが、要するにこの金属の棒がガイドになってくれるということだ。この棒を丸太に対して直角に置けば、丸太もちゃんと直角に切り出せるということだ。
おまけに磁石もくっついているので、力んで刃がブレることもない。
「なるほどな……。こういうので強制的に太刀筋矯正すれば、いずれガイドなしでも垂直に切れるようになるわけか」
「おうよ! 何なら一回試し切りしてみるか? 加工してない材木なら、裏にいっぱいあるからよ」
そう言ってアロイスは家の裏手に回り、太い丸太を三本担いで戻ってきた。ミューにもひけをとらない馬鹿力に、少々舌を巻いた。
「ほらよ。いらないヤツを何本か持ってきてやったぞ」
「ありがとう。ちょっとやってみるよ」
アクセルは丸太を一本地面に置き、金属のガイドで短めのものを選んで、丸太に対し直角になるようセットした。
――この状態で切ればいいんだな。
早速自分の小太刀で切ろうとしたら、アロイスに使い込まれたノコギリを渡された。
「おおい、待て待て。あんた初心者なんだろ? こっちのノコギリ使えよ」
「え? でも太刀筋矯正は自分の武器でやらないと意味がないんじゃ……」
「そりゃそうだけど、下手くそがいきなり丸太切ろうとしても刃が欠けるだけだぜ?」
「う……へ、下手くそか……」
事実ではあるのだが、ストレートに言われるとちょっと傷つく。というか、元木こりから見れば大抵の人は下手くそになるのではないだろうか。
アロイスはおかまいなしに言った。
「これで練習して、上手くできるようになったら自分の武器使いなー。まずは腕に覚えさせることが大事なんだからよ」
「あ、ああ……わかった……」
仕方なくアクセルは、渡されたノコギリに持ち替えて丸太を切ろうとした。
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