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第871話

 金属のガイドにノコギリをピタッと沿わせ、丸太にあてがう。  ――すごい……本当に刃がブレない……。  金属面に薄い磁石が貼られているからか、無理に寄せなくてもノコギリが自然とガイドにくっついてくれる。ガイドがもともと直角なので、丸太にも刃が直角に入ってくれるわけだ。  なるほど、初心者にはなかなか便利な道具である。  そのまま刃を立ててゴリゴリ切ろうとしたら、アロイスが横からストップをかけてきた。 「ちょい! あんた、刃を立てすぎだろ。それじゃ刃が欠けちまうぞ」 「す、すまない……。じゃあどうすれば」 「余計な力はいらないんだよ。ノコギリはなるべく寝かして、刃の切れ味だけでザクザクやるんだ」 「そうか……わかった、ありがとう」  言われた通り、力を抜いて刃を寝かせ、ノコギリを前後に動かしていく。  最初はこんなんで切れるのかと疑ったが、思ったよりすんなり刃が入っていき、むしろ力を込めていた時より切りやすい気がした。腕も疲れないし、一石二鳥だ。 「あんた、もともとは貴族だったりする?」  積み荷の甲冑を磨いていたアロイスが、唐突に話を振ってきた。  アクセルは手を止めずに答えた。 「いや、普通の平民だが……何故だ?」 「だって、正しい木の切り方も知らねぇからさ。よっぽどの坊ちゃんなのかと」 「坊ちゃんではないが……こういう薪割りとか木材の切り出しとかは、いつも兄上がやってたからな……」 「へえ、そうなのか。随分可愛がられて育ったんだな」 「まあ、そうかもしれないな」  年齢差が十一歳もあるし、兄にとっては待望の弟だったから、必要以上に可愛がられてしまったというのもあるだろう。いいのか悪いのかわからないが。 「そういうアロイスは、元木こりだから平民出身か? 兄弟とかいたのか?」 「おう、たくさんいたぜ! うちは兄弟が多くて、木こり一本じゃとても食べて行けなくてさ。食い扶持を減らすために、十五くらいの時に傭兵になったんだ」 「十五歳で傭兵に……」

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