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第872話
アクセルも十五歳くらいで初めて戦場に立ったが、当時は未熟だったので初陣と言っても後方支援がほとんどだった。
正規の戦士だったら前線に出られるのは初陣を飾って五年後くらいだけど、傭兵はほとんど使い倒しのため、経験が浅くてもガンガン前線に立たされてしまう。同年代の戦士と比べて、危険は遥かに多い。
「大変だったな……。傭兵業って雇い主によっては不遇な扱いもされるって聞いたことあるぞ」
「まあ、金を払ってもらえなかったことも何度かあるな。でもだいたいのところは金払いよかったし、木こりより稼ぎはずっとよかったんだぜ? おかげで実家にもいっぱい仕送りできたんだ。そしたらいつの間にか強くなって、ヴァルハラに来てた」
と、明るく語ってくれるアロイス。
ヴァルハラに来たということは地上で一度戦死したということなのだが、彼の語りっぷりを聞くに悲壮感はなさそうだった。
アロイスが甲冑を磨きながら続ける。
「オレ、昔から甲冑と大剣使って戦うのが好きでさ、傭兵仲間でも有名だったんだ。『黒い破壊神』なんて呼ばれることもあって、オレがいる戦場はメタメタのギタギタになるって言われたりしてな」
「それはすごいな」
「だから、自分の腕にもそれなりに自信があったわけよ。でもヴァルハラに来て初めてランゴバルト様の死合いを見た時、その自信がバリバリに砕けちゃってさ。なんつーの? 水中のカエルってヤツ?」
「……井の中の蛙だろ」
「そうそれ! まあとにかく、圧倒的な実力差を思い知らされたね。いやもう、マジであの人凄いんだよ! オレよりも重い甲冑着て、頭に羽根飾りもつけて、武器もすげぇ長くて大きいのに、すげぇ軽快に動き回るし! そんじょそこらの戦士じゃ、歯が立たないのも頷けるぜ。オレ、感動しちゃって思わず弟子入り志願しちゃったよ。一蹴されたけどさ」
その光景が目に浮かぶようで、アクセルはちょっと吹き出してしまった。
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