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第874話

「アロイス、この道具借りていっていいか? まだもう少し特訓したくて……」 「おう、いいぜ! 使い終わったら返しに来てくれ」 「ありがとう。しばらく借りておくよ」  アロイスに礼を言い、アクセルは兄と家に帰った。  ピピのための野菜スープを煮込みながら、卵と牛乳で作った液体にパンを浸す。今日の昼食はフレンチトーストにしよう。 「それで、敵情視察は上手くいったかい?」  昼食用の紅茶を淹れながら、兄が尋ねてきた。 「死合い、あっと言う間に終わらせられそうかな?」 「いや、それは何とも……。アロイス、とんでもない馬鹿力だったもので」 「でも甲冑着てる相手だったら対策はそんなに難しくないよ。動きはそんなに早くないもの。ランゴバルトは例外だけど」 「まあ、そうだな……。とりあえず死合い当日はなるべく頑張るよ」  アロイスとは、お互い全力でぶつかり合おうと約束したのだ。すぐには終わらないかもしれないし、勝てたとしても無傷でいられる自信は全くない。  だとしても、その時はその時だ。もしバルドルの食事会に間に合わなかったとしたら、後日改めて会いに行けばいい。予定があるからって、死合いが上の空になってしまったらアロイスにも失礼だ。 「今日は天気がいいから、外で食べようか」  庭まで野菜スープの鍋を運び、ベランダのテーブルにフレンチトーストの皿を並べ、みんなで一緒に昼食をとることにした。  ピピはあっと言う間に野菜スープを平らげてしまって、その後物欲しそうにこちらを眺めてきた。 「……なんだ? フレンチトースト食べたいのか?」 「ぴー♪」 「わかったよ、一枚だけだぞ」  そう言って自分の皿をピピの前に置いたら、案の定ピピは残っていたフレンチトーストを一口で全部食べてしまった。 「あっ、ちょ……! 一枚だけって言ったのに!」 「ぴ……」 「……美味しかったか?」 「ぴー♪」 「……そうか、よかったな」  結局何も言えず、アクセルは自分の分だけ新しくフレンチトーストを作る羽目になった。

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