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第876話
「よっ、アクセル! 木は上手く切れるようになったか? 今日はよろしくな!」
アロイスが片手を挙げて挨拶してくる。甲冑の隙間から見えている目が、人のよさそうな笑みを浮かべていた。純粋に戦いを楽しみにしていたことがわかる。
「ああ、こちらこそ」
アクセルも小さく微笑みかけた。
戦士二人が揃ったところで、天上からヴァルキリーのアナウンスが聞こえてきた。
『ただいまより、アクセルVSアロイスの死合いを開始いたします……』
会場全体が静まり返った。盛り上がっていた観客が皆一斉に口を閉じ、独特の緊張感にピリッと空気が張り詰める。死合い本番より、死合い開始直前のこの瞬間が一番緊張する。
『死合い開始十秒前、九……八……七……』
アクセルはチラリとボックス席を仰ぎ来た。
通常、ボックス席は余程人気の死合いでない限り使用されることはない。ランキングが真ん中くらいでは、空席になるのが普通だ(というか、一般席ですら半分程度しか埋まっていない)。
その中で、一人だけこちらを見ている人がいた。一人でボックス席を堂々占拠し、周りに何故かお菓子や飲み物を置いて自由気ままに観戦している人物。
――兄上、相変わらず自由だな……。
この緊張感と裏腹に、随分とリラックスしているようだ。まるで舞台演劇でも見ているかのような気楽さである。
それを見たら、かえって緊張が解けた。
『三……二……一……ファイト!』
死合いが始まった。
アクセルは自身の機動力を活かしてアロイスの間合いに踏み込み、一気に接近し二振りの小太刀を抜刀した。
「たあぁぁぁっ!」
相手は分厚い甲冑を着ているので、素早く動けない。だから先手を仕掛けて、反撃されないうちに畳みかける。短時間で死合いを終わらせるにはこれしかない。
「……!」
だが、鎧の隙間を狙って振り下ろした小太刀は、アロイスの腕で受け止められてしまった。腕といっても甲冑に覆われた状態なので、盾のようなものである。
「なんの! オレはその程度じゃ斬れねぇぜ?」
「っ……!」
腕を振り抜かれ、小太刀が当たっているところから火花が飛んだ。アクセルは急いで腕を蹴り、対象から離れて間合いを取った。
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