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第881話

 確実な手応えを感じ、続けざまもう片方の拳を繰り出す。  だがアロイスもタダでは殴らせてくれず、殴ろうとした瞬間、腹部に強烈な膝蹴りが入った。それで一瞬、意識が飛びかけた。 「ぐっ……!」  後方へふっ飛ばされながらも、どうにか体勢を立て直して着地する。だが着地した瞬間アロイスが距離を詰めて来て、再び硬い拳を振るってきた。  ――まだまだ……っ!  首を捻ってかわし、お返しにこちらも二、三発拳打を叩き込む。今度は頬ではなく顔の真正面――特に顎や頸椎を狙った。ここまで来たら、もうちまちま攻撃を当てている場合ではない。早く致命傷を与えてケリをつけなくては。 「たあぁぁぁっ!」 「ぅおりゃあぁぁっ!」  雄叫びと一緒に、互いの拳が交差する。  バキッと何かが砕ける手応えがあり、アロイスの首がおかしな方向に曲がった。  だが同時に彼の拳もこちらの胸部に入り、肋骨もろとも肺と心臓を叩き潰された。 「ごふ……っ」  喉元から生温かい鉄の味がせり上がって来て、口元から勢いよく迸る。  全身から力が抜け、強烈なめまいにとうとう立っていられなくなり、アクセルは地面に倒れた。一生懸命起き上がろうとして、力の入らない指先で無駄に地面を引っ掻く。  ああどうしよう、まだ勝負は決まってないのに。立たなきゃいけないのに力が入らない。意識がどんどん霞んでいく。息ができない。  アロイスはどうなっただろう。首を折ったような感触があったけど、確実ではなかったかもしれない。そしたらきっと、この勝負はアロイスの勝ちだ。  ――まあ、そうだな。どっちが勝っても恨みっこなしだ……。  自分は全力で戦った。アロイスも全力を出した。どんな結果になろうと悔いはない……。  アクセルの意識はそこで途切れた。天上ではヴァルキリーが勝敗を告げていたが、そのアナウンスはアクセルには届かなかった。

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