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第886話(フレイン視点)

「ユーベル、いるかい? お邪魔するよ」 「おや、フレインではないですか。あなたが自分から訪ねて来るのは珍しいですね」  そう言ったユーベルは、従僕の戦士にかしずかれて優雅なティータイムの真っ最中だった。さすがに純粋な貴族は、余暇時間の過ごし方も上流階級者そのものである。 「それで? 招かれてもいないのに訪ねて来るとは何事ですか? わたくしと優雅なティータイムをしたくなったんですか?」 「それはまた今度でね。今日は食事会に着ていく衣装を見繕ってもらおうと思って」 「食事会! あなたがそんな洒落たイベントに興味があっただなんて!」  明日は槍が降るかもしれませんね、などと軽口を叩いてくるユーベル。雪くらいならいいが、さすがに槍が降ると食事会に行けなくなるのでそれは御免被りたい。 「まあ、ファッションセンス抜群のわたくしを頼ってきたのは賢明な判断ですね」  ユーベルがティーカップを置き、椅子から立ち上がる。 「簡単な食事会と言えど、TPOをわきまえた服装で出席せねば恥をかきます。わたくしが華麗なコーディネートを考えて差し上げましょう」 「ありがとう。きみの判断に全てお任せするよ」 「ちなみに、弟くんの分は必要ですか? 必要ならば、兄弟で統一感のあるコーディネートに仕上げますが」 「そうだね、アクセルの分も頼むよ。本人は今棺で寝てるから連れて来られないけど」 「ああ、そう言えば弟くんは今日死合いでしたか」  と、ユーベルが広々とした衣裳部屋をぐるりと歩き回る。 「棺行きということは、弟くんは敗北したのですか?」 「いや、引き分けだよ。危ないところだったけど」 「ほう。未熟ながらも頑張っているようですね。いずれ本当に七位以内に食い込んでくるかもしれません」 「そうあって欲しいものだね」  時間はかかるだろうけど、あの弟ならきっと頂点まで上り詰めてくれる。彼にはそれだけの素質と、努力をする才能が備わっているのだ。今から楽しみでならない。

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