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第888話(フレイン視点)

 それと一緒に、中に着るシャツも渡された。これも白と黒がベースになっているシンプルなものだった。 「こちらの衣装でどうですかね? 弟くんと並んで着ることを前提に考えてみました。完全なお揃いではありませんが、このデザインの方が個性も引き立つかと」 「なるほど。弟が帰ってきたら一緒に着てみるよ、ありがとう」 「その衣装は差し上げます。わたくしはこの通り、自分用の衣装も腐るほど持っていますので。着るのが追い付かない衣装も多いんです」  言われてみれば、シャツもジャケットも袖を通した形跡がない。ハンガーにかけられているものの、おろしたての新品そのものだ。  最初は借りるつもりで来たけれど、くれるというのだから素直に受け取っておこう。ユーベルのことだ、この程度のことで恩着せがましく何かを要求してくることはあるまい。  フレインは二人分の衣装を脇に抱え、微笑みながら礼を言った。 「ありがとう、助かったよ。後で食事会のお土産話でもしに来よう」 「ええ、楽しみにしていますよ。くれぐれも、食事のマナーには気をつけるように」  ユーベルの屋敷を出て、自宅へ直帰する。  念のためもらった白い衣装を身につけてみたら、びっくりするほど自分にぴったりだった。オーダーメイドかと思ってしまうくらい、しっくり馴染んだ。この分なら、アクセルの黒い衣装もぴったりだろう。  ――というかユーベル、最初からこの衣装着せるつもりだったんじゃないだろうね?  ユーベルのことだから大いにあり得る。その人に着て欲しい衣装をこっそり仕立てておき、機会があったらわざとプレゼントして間接的にファッションを楽しむのだ(ユーベル歌劇団の連中が、ユーベルの愉快な着せ替え人形にされているのは有名な話)。  他人に衣装を着させて何が楽しいのかよくわからないが、彼のセンス自体は抜群なので文句は言えない。  やれやれ……と衣装を脱ぎ、明日まで皺にならないようハンガーで壁にかけておいた。

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