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第892話
「ええ? 何で血まみれなんだよ……?」
血の汚れは早めに洗わないとシミになって落ちなくなるのだ。これは既に血液が茶色に変色しているので、手洗いしても落ちないかもしれない。
いや、そんなことより何故ハンカチが血まみれに? 自分が死合いに行く前は、こんなものなかった。ということは、自分が棺で休んでいる間にできたということになる。だけど、兄自身はどこか怪我をしている様子はない。
はて、これは一体誰の血なんだろう。自分がいない間に何があったんだろう。
「支度できた?」
兄が洗面所を覗いてきたので、アクセルは早速聞いてみた。
「兄上、このハンカチはどうしたんだ? 誰か怪我したのか?」
「ああ、それね。実は昨日ジークが料理している最中に指をざっくりやっちゃって」
「……えっ? 料理?」
予想外の答えに、思わず目を剥いてしまう。
が、兄は世間話のような軽い口調で続けた。
「うん。ジークって包丁の扱いがあまり得意じゃないんだよ。彼の武器は槍だからかな、どうも勝手が違うらしくて、手元が狂いがちなんだって」
「いや、あの……」
「それで昨日もキッチンでざっくりやらかしちゃってさ。血が止まらなくなったから私のハンカチで止血したんだよ。本人は洗って返すって言ってたけど、別にそこまでしてもらう必要ないから回収したわけ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。それどういうことだ? 昨日ジーク様をうちに呼んだってことか? 俺がいない間に?」
「そうだよ。一人で食事するのも寂しかったんで、うちで料理して一緒に食事したの」
「はあッ!?」
とんでもない事実が発覚し、アクセルは兄に詰め寄った。
自分がいない間に勝手に自宅に男を連れ込んだとか、正気の沙汰とは思えなかった。しかも相手は、あのジークである。よりにもよって元彼と家で食事するとか、何を考えているのか。
「何してるんだよ! 寂しかったじゃないだろ! 一日くらい我慢してくれよ!」
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