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第893話
そう怒ったのだが、兄は不思議そうな顔をして言った。
「? 何怒ってるの? 友人と一緒に食事しただけだよ?」
「食事だったら外でもできるだろ! ここは俺の家でもあるんだぞ! そんな場所に元彼を連れ込んで一緒に料理して二人きりで食事するとか、何考えてるんだ! 完全に浮気じゃないか!」
「? 何でそれが浮気になるんだい? お前だってお友達と食事することくらいあるじゃないか。意味わからないんだけど」
「ジーク様は友人じゃなくて元彼だろ! ミューやユーベル様が一緒にいたならともかく、二人きりで食事することないじゃないか! しかもうちでなんて、どう考えてもおかしい!」
「……お前、頭固すぎない? 場所はたまたま家だっただけだし、人だってたまたまジークがだっただけだよ? やましい気持ちなんて欠片もないんだから、そんなに怒る方がおかしいでしょう」
「だとしても俺は嫌だ! 兄上が何と言おうと、俺にとってそれは浮気なんだ!」
兄のことだから、本当にやましい気持ちはないのだろう。浮気という認識も一切ないに違いない。友人と食事しただけだと言われればそれまでだ。
それでも、どうしても不快感は拭えなかった。
――ホントに信じられない……! 俺がいない間にそんなことするなんて……!
たった一日だ。もっと長い間離れ離れだったこともあるのに、昨日一日は何故我慢できなかったのか。寂しかったと言えば何でも許されると思っているのか。冗談じゃない。そんなことを許したら、今後も自分が棺送りになった時、こうして浮気を繰り返すことになる。それだけは断じて許せない。
アクセルは怒りに任せて、血まみれのハンカチを洗濯籠に押し込んだ。見たくもなかったのでなるべく奥に突っ込んだ。そして怒鳴った。
「とにかく! 今後はこういうことは絶対許さないからな! 俺が棺に入っている間は、誰かと食事するの禁止! 自宅に招くのも禁止!」
「…………」
「たった一日なんだから、それくらい守ってくれ!」
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