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第896話

「ありがとう。今まではなかなか会えなかったから本当に嬉しいよ。やっぱり兄弟は仲良しに限るね」 「え……ええ、まあ……」  たった今、兄と喧嘩してきた身としては、曖昧に頷くしかないのだが。  バルドルは首を捻って周囲を見回した。 「ところでフレインはどうしたの? 一緒に来ると思ってたんだけど」 「……さあ? 後から来るんじゃないですか?」 「? あれ? もしかして喧嘩中?」 「……まあ、そんなところです」 「あらら。きみ達みたいな仲良し兄弟でも、喧嘩することあるんだねぇ」  バルドルが目を丸くするので、アクセルは少しだけ口を尖らせた。 「滅多にないですけどね。でも今回ばかりはさすがに我慢できなくて」 「そうなのかい? 一体何をやらかしたんだか……」 「浮気ですよ。俺が棺に入っている間に、自宅に元彼を連れ込んで一緒に料理して食事してたんです」 「おや、それはまた……」 「信じられないでしょう? 俺は必死に戦っていたのに、よりにもよってこのタイミングで浮気とか……。一体どういう神経しているのかと思いますよ」  口に出したらまた腹が立ってきた。  勢いのままバルドルに愚痴りまくろうとしていたら、後ろから問題の人物がやってきた。 「ああ、もうこっちにいたのか。急に飛び出していくからどこ行ったのかと思ったよ」 「あっ、兄上……!」 「バルドル様、お久しぶりです。この度はお招きいただき、ありがとうございます」  礼儀正しく挨拶をしている兄。  その礼儀正しさすら今は嘘くさく見えてしまい、アクセルはムスッと顔を反らした。他人に礼儀正しくできるなら、身内に対しても礼節をわきまえたらどうなんだ。  次いで、兄はこちらに向き直った。そしてあろうことかこんなことを言い出した。 「お前、いつまでむくれた顔してるの? せっかくの食事会なんだから、もっと楽しそうな顔しないと失礼じゃない」

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