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第897話
その言い草にプチッと何かが切れ、アクセルは人目も憚らず兄を怒鳴りつけた。
「はあッ!? 誰がこんな顔させてると思ってるんだよ! だいたいあなたが浮気なんてしなければ……」
「おいお前、ちょっと落ち着け。他の客もいるんだぞ」
ホズに止められ、ハッとして口を閉ざす。他の招待客は「何事だ?」といった目線をこちらに向けて、ひそひそと噂話をしていた。さすがに恥ずかしくなった。
こんな状況で来るんじゃなかった……と内心後悔していると、唐突にバルドルが口を開いた。
「ああ。そう言えばホズ、アクセルが来たら話したいことがあるって言ってたよね?」
「あ……ああ、そうだったな」
「私はフレインとお話してるから、あっちで話してきたら? 食事もまだ準備中だし、ゆっくりしてきていいよ」
「わかった」
そう言うと、ホズは強引にアクセルを連れてその場を離れた。結構強い力で引っ張られたので、余程重要な話なんだろうと思った。
「……この辺でいいか」
ホズは屋敷の裏手にある庭で足を止めた。
ここは日頃、鍛錬やDIYをやる場所なので客らしき人は誰もいない。人質として生活していた時はここでポスト等を作ったものだが、その頃とあまり変わっていないようだ。
「あの……ホズ様、話したいことって何ですか?」
「いや、特にない」
「……えっ? ないんですか? なら何故……」
「兄上が気を遣ってくれたんだろう。あのまま放っておいたら、お前たちあそこで大喧嘩しそうだったからな。他の客にも迷惑だ」
「それは……すみません」
しゅん……と肩を落とす。
喧嘩をやめようとは思わないが、無関係の人に迷惑をかけるのはやはり心苦しい。せっかく招待してくれたバルドルにも申し訳ない。
――それもこれも、兄上が余計なこと言うから……!
まだ気持ちが収まらず、口を「へ」の字に曲げてむくれていると、ホズが溜息交じりに腕を組んだ。
「……まあ、お前が怒る気持ちもわかるがな。フレインは少々自由すぎる」
「えっ……?」
「俺も兄上に似たようなことされた経験は何度もあるからな……」
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