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第898話
「ええ!? ホズ様もバルドル様に浮気されたことあるんですか!?」
「声が大きい」
ペシッと軽く引っぱたかれ、やむなくアクセルは口を閉ざした。
――意外だな……。バルドル様、すごく誠実に見えるのに。
口調や雰囲気は兄・フレインに似ているけど、バルドルはホズ一筋だと思っていた。何度も浮気するなんて想像がつかない。
「まあ、そうは言っても『浮気』と呼べるのか微妙なものばかりだったけどな。こちらとしては複雑だったが、いちいち怒っていてもキリがないから大目に見るべきだと腹を括った」
「そ……そうなんですか?」
「ああ。兄上のやったことと言えば、不特定多数の者を招待して食事会を開くだとか、人質として送り込まれた者と仲良く暮らすだとか、そういうことばかりだったからな。人質の件に関しては俺としてもものすごく複雑だったが、『仕事だ』と言われればそれ以上問い詰めることはできないし」
「え……ええと……」
人質の件は自分にも当てはまるので、さすがにバツが悪かった。確かにホズの身からすると、どこの馬の骨ともわからないヤツが兄の屋敷に住んでいると知れたら、気が気ではないかもしれない。
「あの……一応断っておきますけど、俺はそういう気持ちは一ミリもありませんでしたよ?」
「わざわざ断らんでいい。それに『一ミリもない』と断言されるのも、それはそれで複雑だ。兄上に魅力なんてないと言われているみたいだろ」
「い、いえ、決してそのような……! バルドル様はどこから見ても素敵な神様ですよ」
「そんなことはわかっている。というか、そうやって手放しで褒められるのもまた微妙な気分になるんだ。兄上に気があるのかと思ってしまうからな」
「そんな……。じゃあ俺はどうすればいいんですか」
気持ちはないと言ってもダメ、素敵な神様だと褒めてもダメ。となれば、何も言わず曖昧に微笑むくらいしかできない。
とはいえ、弁解しなければ誤解が大きくなってしまうこともあるし……こういう場合は一体どうするのが正解なのだろう。
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