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第899話
頭を抱えていると、ホズは少し息を吐いて言った。
「……と、このように『気持ち』というのは思った以上に複雑だ。どうやっても正解に辿り着けないこともままある」
「は、はあ……」
「だからこそ、時には『見て見ぬフリ』をするのも重要だ。他人の一挙手一投足をいちいち気にして、その度に一喜一憂していたら身がもたないだろう。浮気される度に大喧嘩するわけにもいかないしな」
「う……それは、確かにそうなんですが……」
そうは言うけど、そんな簡単に「見て見ぬフリ」ができたら苦労しない。それができなかったから、兄と喧嘩してしまったわけだし。
アクセルは肩を落とし、力なく尋ねた。
「……ホズ様は、バルドル様が浮気したって気づいた時、いつもどうしてるんですか?」
「最初は何もしない。最低でも一日は我慢することにしている」
「えっ、そうなんですか? それは何故……」
「頭に血が上った状態で相手を問い詰めたら、余計なことまで言いかねないからな。そうなれば大喧嘩に発展することは明白だ。こちらもそこまでは望んでいない」
「う……」
身に覚えがありすぎて、かなり耳が痛い。
「……で、自分の頭を冷やしてそれでも納得できなかったら、ストレートに兄上を問い詰める。それで納得いく回答が得られなかったら、手加減なしで一発ぶん殴る」
「ぶ、ぶん殴る!? ホズ様が? バルドル様を?」
「ああ、そうだ。それでこの話は終わり。後には引きずらない。シンプルでいいだろ?」
ニヤリと口角を上げて来るホズ。
意外すぎるやり方に、さすがにびっくりした。バルドルのことを敬愛しているホズが、手加減なしでぶん殴るなんてことできるのか。いや、それ以前にぶん殴るだけで解決するものなのだろうか……。
「……それで上手くいくんですか?」
「上手くいくかどうかではない、一種のケジメみたいなものだ」
「ケジメ……」
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