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第900話
「人の価値観はそれぞれ違うからな。どんなに話し合っても平行線で終わってしまうこともある。こちらが『浮気だ』と訴えても、相手が『浮気じゃない』と思っていれば主張は噛み合わない。だからといって、その度に喧嘩していては双方にとって損しかない」
「それは……」
「とはいえ、何もせずにこちらが一方的に我慢するのはあまりに理不尽すぎる。だから一発ぶん殴る。根本的な解決にはならんが、それで幾分気持ちは収まる」
「そう、ですか……」
「お前も、どうしても許せなければ一度兄をぶん殴ってみたらどうだ?」
ホズが、どこかそそのかすような口調で言ってくる。
――なるほど……。そういうのもアリなのか……。
できるかどうかはわからないが、やってみる価値はありそうだ。このままでは気持ちの整理がつかないし、こちらの気持ちを訴えるきっかけにもなる。
「……ありがとうございます。参考にさせていただきます」
アクセルはぺこりと頭を下げた。そして愚痴のように尋ねた。
「それにしても、兄上といいバルドル様といい、なんで浮気するんでしょうね? あれって直らないんでしょうか?」
「直ったら苦労しないさ。そもそも兄上は、自分がやっていることを『浮気』だとは思っていない。だから何度も同じことを繰り返してしまうんだ」
「あ、それうちの兄も同じです。『友達と食事しただけでどうして浮気になるの』って開き直ってくるんですよ」
「……そうか。しかしそれはまた微妙な浮気だな……」
「いえ、『友達と食事する』のが悪いって言ってるんじゃないんです。『俺の留守中』に、『自宅』で、『元彼』と、『二人きりで食事した』ことが問題なんです。不安要素が四つくらい重なってるんですよ」
逆に言えば、これらの要素のどれかひとつでも欠けていれば、浮気と認識することはなかっただろうと思う。
するとホズは「ほう」と腕を組んで言った。
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