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第901話

「元彼か。フレインもなかなか大胆なことをする」 「でしょう? いくら『やましい気持ちはない』って言われても、疑いたくなりますよ」 「まあ、本人に言わせれば『別れたんだから元彼も友達』ってことになるんだろうけどな。俺も何度そんな言い訳をされたことか……」 「ええ……? バルドル様も同じようなこと言ってたんですか? ホズ様も苦労が絶えないですね」 「……そうだな。もっとも、そのおおらかさが兄上のいいところでもあるんだが」  少し苦笑いを漏らすホズ。諦めているというよりは、全てをひっくるめて受け入れている感じだった。バルドルの短所も長所として解釈することで、むやみやたらに喧嘩しないよう努めているみたいだった。  ――ホズ様、器が大きいな……。  アクセルには、まだそこまでの寛大さはない。浮気が判明したらすぐさま兄を問い詰めたくなってしまうし、見て見ぬフリなどできそうにない。  とりあえず、ホズの真似をして「手加減なしで一発ぶん殴る」というのをやってみよう。そうすればある程度は気分が晴れるかもしれない。 「そろそろ戻るか。食事の準備もできている頃だしな」 「はい」 「言っておくが、くれぐれも食事会の会場でフレインに喧嘩を仕掛けないように。ぶん殴るなら誰もいない外でやってくれ」 「はは……それはわかってますよ」  さすがにみんなが楽しく食事しているところで、兄をぶん殴ったりはしない(……さっきは人目を憚らず喧嘩しそうになったけど)。  ホズに続いて屋敷に戻り、食事会の会場に向かった。  食事会の部屋はかつて生活していた時に使っていた食堂で、中央にあった広いテーブルはどこかへ片付けられ、代わりに立食形式に変更されていた。部屋の奥の方には少し小高いステージが用意されており、何かしらのショーを披露できるようになっている。  ――ヴァルハラでの宴に似てるな。もっとも、ユーベル様みたいな過激な舞を披露されても困るけど。  そんなことを考えつつ、アクセルは目を動かして兄・フレインを捜した。はて、彼はどこにいるだろうか。

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