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第902話

 ――あ、いた……。  兄はワイングラス片手に、他の神々と世間話をしていた。面識はないはずなのに、意外にも会話は盛り上がっているように見えた。 「はーなるほど、お前たちがあの巫女の息子か。お前はともかく、弟はどうなんだ? 巫女に似てるのか?」 「いえいえ、全く似ていませんよ。見た目も性格も、巫女とは別人です」 「へえ、そうなのか。似なくてよかったな」 「ええ、まったく。似ていたら虐待の末に殺していたかもしれません」  ……などと、冗談交じりに言う兄にちょっと寒気を感じた。  ――俺、あの巫女と似ていなくてよかった……。  兄は母親である巫女に育児放棄されていたし、ずっと一人でほったらかし状態、そのくせ弟の世話を押し付けられてきたから、巫女に恨みがあるのも理解できる。巫女に似たような人が身近にいたら、八つ当たりしていたかもしれない。  そういう意味では、見た目も性格も巫女に似ていなくて正解だった。  ――というか兄上の浮気癖って、もしかして巫女からの遺伝だったりする……?  今更だけど、そういう可能性も考えられなくはない。あの巫女もかなり奔放な性格だったし、知らない間に子供を作っていたことは明白だ。その点に関しては兄とだいぶ似ている。  そう考えたら、腹立たしかった気持ちがすーっ……と鎮まっていった。  アクセルは談笑している兄たちに近付き、横から話しかけた。 「兄上、ちょっといいか?」 「おや、アクセル。お前今までどこにいたんだい?」 「ん? お前が巫女の次男か? 確かにあまり似てないな……」 「ありがとうございます。アクセルです、以後お見知りおきを」  軽く挨拶して、アクセルは兄の腕を掴んだ。 「兄上、ちょっとこっちに来てくれ」 「どうしたの? 何か用事?」 「いいから」  あくまで冷静に兄を会場から連れ出す。兄もワイングラスを置き、仕方なく付いてきてくれた。

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