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第904話
アクセルは気持ちを切り替えつつ、兄に言った。
「じゃあ、俺はバルドル様に挨拶してくる。さっきはちょっとしか話せなかったからな」
「……それはお前が突然キレ出すからじゃないの?」
「元はと言えば、兄上が浮気するのがいけないんだ。ちなみに、これからは兄上が浮気する度に一発殴ることにしたから、そのつもりでいてくれ」
「ええー……? 浮気もしてないのに殴られるとか、そんな理不尽なことある?」
「兄上が何と言おうと、俺が『浮気』とみなして不快になったことは事実だからそうするんだ。いつまでも喧嘩を引きずるより余程健全だろ?」
「…………」
「まあ、兄上が浮気しなければいいだけのことだ。じゃ、俺はこれで」
そう言い置き、アクセルはその場を立ち去った。
後ろから、「もう……勝手な子だなぁ」という兄のボヤきが聞こえてきたが、気にせず食堂に向かった。
食堂では既に見世物が始まっていて、奥にあるステージで誰かが熱唱していた。曲そのものは聞いた事がないのに、何故か懐かしい感じがする。
「フレインと仲直りはできたかい?」
ぼんやりとステージを眺めていたら、横からバルドルが話しかけてきた。
アクセルは慌てて頭を下げつつ、先程の非礼を詫びた。
「バルドル様……。先程は失礼しました。招待していただいたのに、お見苦しいところを見せてしまって」
「いや、大丈夫。仲良し兄弟でも喧嘩することはあるもんね」
「兄は相変わらず納得できていないようでしたが、ホズ様に倣って一発殴ってチャラにしました。今後も兄が浮気したらそうするつもりです。宣言もしてきました」
「そうかい。まあ、仲直りできたならよかったよ」
にこりと微笑み、バルドルは改めてこちらに向き直ってきた。
「それにしても、こうして話すのは本当に久しぶりだね。無事に復活できてよかった」
「その節はありがとうございました。バルドル様がオーディン様に口添えしてくださったおかげです」
「私はほとんど何もしてないよ。フレインが頑張ったのと……父上が、ちょっと強引なことをしたおかげかな」
「……強引?」
どういうことかわからず、アクセルは首をかしげた。
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