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第905話
するとバルドルは、すこし苦笑しながら言った。
「きみに言うべきことじゃないかもしれないけど……きみの母親・予言の巫女は、神々の間で――正直、あまり評判がよろしくなくてね。性格も性格だし、唐突な予言で周りを混乱させるから、父上を始めとした神々に煙たがれていたんだ」
「あー……それはわかる気がします」
彼女と直接話したのはラグナロクの最後、石碑の前でほんの少しだけだったが、それだけでもだいぶうんざりしたものだった。アクセル自身も、「なんでこんなのが自分の母親なのか」と思ったし、「こんな性格じゃ煙たがられて当然だよな」とも思った。
なので、バルドルの口から予言の巫女に対する罵詈雑言が出てきたところで、何とも思わない。むしろ「普通はそう思いますよね」と共感してしまうくらいだ。
「それで……ラグナロクで巫女本人は消えたわけだけど、まだ息子・フレインが残っていた。で、当然フレインはきみを復活させるために父上を頼ったけど、実はそこでひと悶着あったんだ」
「ひと悶着、とは?」
アクセルが首をかしげると、バルドルはこちらに顔を近づけ、声を潜めて言った。
「……大きな声では言えないけど、『あの巫女の息子を復活させるなんてとんでもない』という一派が少なからずいたんだよ」
「えっ……?」
「巫女と石碑さえなければ、無茶苦茶な予言に振り回されることもない。せっかく自由になったのに、巫女の息子が後を継いでしまったらまた石碑に従う日々に逆戻りだ。そんなのは御免だ……って、暴動が起きそうになったんだよ。息子など復活させず、残った息子も透ノ国に閉じ込めろ……とか言い出す者もいて」
「そんな……」
アクセルは言葉を失った。
こちらからすれば巫女を継ぐ気など全くないし、兄を一人だけ透ノ国に閉じ込めるのも言語道断だ。
自分たちはヴァルハラでオーディンの眷属 として生きてきた。それはこれからも変わらないし、変えるつもりもない。
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