906 / 2013

第906話

「でもそれ、結局杞憂だったんですよね? 俺が無事に復活できたってことは、何も問題なかったってことですよね?」  改めて尋ねると、バルドルは小さく頷いた。 「そうだね、今のところは。父上としても『ラグナロクを生き延びられたのは、巫女の息子たちのおかげ』という意識が少なからずあったみたいで。反対する連中を力ずくで捻じ伏せて、復活の儀式を行ったらしいんだ。力ずくで捻じ伏せちゃうところが、父上らしいところだね」 「はあ。それで……その反対していた方々は今どうしてるんですか?」 「特に何も。きみ達がヴァルハラで眷属(エインヘリヤル)として管理され続ける限りは、これといった騒ぎは起こらないはずさ……多分ね」 「多分って……」  曖昧な答えだなぁ……と内心不安に思っていると、バルドルは真面目な顔で続けた。 「ヴァルハラはアース神族の世界(アースガルズ)の中でも、かなり特殊な場所なんだよ。神族でもなく巨人族でもない、元は人間の戦士たちが父上の眷属(エインヘリヤル)として一ヶ所に集められている。今でこそ比較的どの世界にも自由に行けるようになったけど、かつては世界樹(ユグドラシル)を通って別の世界に遊びに行くなんて、考えられなかった。それだけヴァルハラはきちんと管理された場所だったんだ」 「言われてみれば、確かに……」 「そこまでしっかり管理されている場所に息子たちを放り込んでおくなら、自分たちの不利益になることはないだろうと、反対していた連中も渋々納得したわけさ。だからきみ達がヴァルハラで生き続ける限り、滅多なことは起こらないよ」 「そう、ですか……」  理屈はわからんでもないが、それはつまり、自分たち兄弟には他の世界に行く自由はないということではないか。兄のことだから「ちょっと地上に遊びに行ってみない?」などと言い出しかねないけど、そういうのも全部禁止ということではないか。  それは……何だかちょっと、窮屈に感じる。

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