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第907話
「つまり俺たちは、ヴァルハラからあまり出ない方がいいってことですか? この食事会も……」
呟くように尋ねたら、バルドルは「いやいや」と手を振った。
「今日は私が直々に招待したから大丈夫。勝手にどこかに行ったわけじゃないしね」
「そうなんですか?」
「反対派の連中は、きみ達が勝手にどこかに行って勝手に力を覚醒させるのを恐れているんだ。だから許可さえあれば、どこでも自由に行っていいはずだよ」
「そうですか……よかった」
許可取りは少し手間がかかるが、それで自由に出かけられるなら文句は言えない。完全に禁止されていないなら、それでいい。
バルドルが穏やかな口調で忠告してくれる。
「私は、きみたち兄弟はこれからもヴァルハラで眷属(エインヘリヤル)として生きていくものだと信じている。仮に巫女の力が覚醒したところで、母親の後を継ごうとは思わないだろう。けれど、反対派が一定数いるのも事実。そういう奴らにつけ込まれないように、怪しい行動は控えるんだよ」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
アクセルは素直に礼を言った。
――まあ、要はヴァルハラから出なければいいんだよな。
こうして招待されない限りヴァルハラの外に用事もないし、忠告は受けたけれどさほど不便はないかもしれない。兄はどこかに行きたがるかもしれないが、それだって許可を取れば済むことだし。
「アクセル」
そこへ、骨付きチキンを手にした兄がやってきた。一本だけでなく、大きな皿に山盛りに乗せている。まるでヤケ食いみたいだ。
「ええと……すごい量だな」
「せっかくだからいっぱい食べてやろうと思って。……ところで、食事会終わったら玉鋼採集に行かない?」
「……玉鋼?」
「武器の修理や錬成に必要なんだ。こっちの玉鋼は質がいいから、ヴァルハラでも重宝するんだよ」
「そうなのか……。それは興味深いな」
そう言ったところで、たった今バルドルに忠告されたことを思い出した。許可なくあちこち出掛けない方がいいと。
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