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第908話

「あの……兄上、その玉鋼はどこにあるんだ?」 「どこって……そりゃあ山の中でしょ。さすがにそこら辺の道路に転がってはいないよ」 「……だよな。てことは、山に出掛けることに……」 「何? 何か問題でもあるの? 嫌なら私一人で行ってくるけど」 「いや、違うんだ。ちょっと気になって……」  既にバルドルは別の神に話しかけられ、どこかへ行ってしまっている。山に出掛けるのはアリかナシか、ジャッジしてもらおうと思ったけどタイミングを逃してしまった。 「山……山か……。山の中の屋敷を訪ねるならまだしも、玉鋼探しだもんな……。あちこち歩き回るだろうし、個人的にはちょっと怪しい気がする……」 「……何を言ってるか知らないけど、つまりお前は行かないってことでいいの?」 「いやいや、だから違うんだって。これは兄上にも関係することなんだ」 「……どういうこと?」  アクセルは、先程バルドルに忠告された内容を話した。自分たちは予言の巫女の息子として目をつけられているから、行動には気を付けた方がいいということ。どこか別の世界に行きたくなったら、その都度許可をとること……等々。  すると兄はさも面倒臭そうに眉を顰めて、言った。 「ああ、その話か……。理屈はわからんでもないけど、そんなこと言ってたら何もできなくない?」 「いや、でも……出先で万が一のことがあったら困るじゃないか。ヴァルハラみたいにすぐに棺に入れられるわけじゃないんだし」 「玉鋼探しくらいで、どうにかなるとは思えないけどね。というか、仮に巫女の力が覚醒したところで私は予言者にはならないし、予言をするつもりもない。そんな的外れな心配をしている方がどうかと思うよ」 「……まあ、それは俺も同意だが。だからって油断するのはどうかと思うぞ。せめてバルドル様に許可を取ってからにしよう」 「そう? だったらお前が許可を取っておいで。私は食事に忙しいから」  そう言って兄は、骨付きチキンにがぶりと噛みついた。

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