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第909話

 相変わらずすごい食欲だな……と呆れつつ、アクセルはバルドルを捜した。  ――ええと……バルドル様はどこに行ったんだ?  会場をぐるりと見て回ったけれど、バルドルの姿が見えない。食事会のホストだからいろいろと忙しいのかもしれないが、ここからあちこち捜し回るのも効率が悪い気がした。  とりあえずアクセルは、たまたま見つけたホズに声をかけた。 「ホズ様、バルドル様を見かけませんでしたか?」 「兄上は次の料理の手配や、余興の指示をしていると思う。忙しいから、余程の用でない限り邪魔をしないように」 「そ、そうですよね……。じゃあ誰に許可を取ればいいんだろ……」 「何の許可だ?」 「玉鋼を集めに行く許可です。俺たちは予言の巫女の息子だから、他の場所に行く時は許可を取らないといけないって」 「……それで兄上に許可をもらおうとしているのか」  ホズは納得したように腕を組んだが、すぐにこう釘を刺してきた。 「それなら俺が許可を出してやってもいいが、命の保障はないぞ。仮に死んでも自己責任だ。それでもよければ行ってくるといい」 「……え。そんなに危ない場所なんですか?」 「玉鋼が採れる洞窟は、こことは違う特殊な場所でな。何層もの地下構造になっていて、地下深くになればなるほど、良質な鉱物が採れる。……が、当然のことながら、その分危険も増していくわけだ」 「そうなんですか……。というか、玉鋼って地下にあるんですか?」 「……はあ? 当たり前だろ。お前は一体どこに行こうとしてたんだ」 「それは……山に登って発掘するものだと……」 「……それはヴァルハラでのやり方だろ。こっちの玉鋼は地下に埋まっているんだ。玉鋼を集めるつもりなら、少しは勉強してから来い」 「す、すみません……」  思いっきり怒られてしまったが、玉鋼を探しに行こうと言い出したのは兄なので、とんだとばっちりである。

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