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第911話

「いや、俺も行く」  兄を遮るように、アクセルは言った。気合いを入れるように兄の皿から骨付きチキンを奪い取り、がぶりと噛みつく。 「万が一兄上が死んだ時、遺体を回収する人がいないと困るだろ。二人で行った方が安全だ」 「おや、お前は私が死ぬと思ってるの? お前の方が危ないんじゃない?」 「……それはそうだが、俺だって努力してるんだ。そう簡単には死なない。兄上に迷惑はかけない」  そう言い切ると、兄は少し目を丸くした。 「うん、わかった。じゃあ一緒に行こう。くれぐれも夢中になりすぎて罠にかからないようにね」 「わ、わかってるよ!」  ……何かに夢中になっていつの間にか罠にかかってしまうのは自分の悪い癖だ。そこは気をつけなければ。  ――まあ、危険と言っても玉鋼を集めて来るだけだし。そんな地下深くに潜らなければ大丈夫だろ。  そう思い、アクセルは兄と玉鋼探しに向かうことにした。 ***  食事会が終わり、アクセル達は噂の場所に向かった。  洞窟みたいなところなのかなと思っていたが、想像とは全く違って、巨大なクレーターが地面を抉っているような構造になっていた。精神を鍛えるために入ったヴァルハラの洞窟とはまるで違う。 「いやぁ、なんか本当に発掘現場って感じだねぇ」  と、兄が感心して言う。 「でもパッと見はそこまで危険そうには見えないけど。どこかがいきなり崩れてきたりするのかな?」 「さあ……? でもバルドル様も結構心配してたから、危険であることは間違いないんだろうな」  出掛ける前のバルドルの様子を思い出す。  屋敷を出る時に「念のために」といろいろ持たせてくれたけど、その時も何度も念を押していた。 「本当に気をつけてね。あまり深入りしちゃだめだよ。ある程度集めたら撤収すること。それと、ヴァルハラに戻る前に一度顔を見せてね」 「はい、わかりました。……では、行ってきます」

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