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第912話

 見た目はただの発掘現場なんだけどなぁ……と、淵からクレーターを覗き込んでいると、 「ほら、早く行くよ。さっさと集めてさっさと帰らなきゃ」  兄が豪快にザザザ……と滑り、一気に一番下まで降りて行った。 「え、ちょっ……! いきなり一番下って……!」  アクセルも慌ててその後を追い、兄と同じ一番下に足をつける。 「急に降りたら危ないだろ。何かあったらどうするんだ」 「大丈夫だよ。ここ、まだまだ浅い部分だから」 「えっ?」  兄がくいっと親指で指し示した場所に目をやる。  見れば、最下層の壁際にぽっかりと黒い穴が開いていた。そっと近づいてみると、そこから更に階段が繋がっている。狭くはなかったがいかにも「洞窟」という感じで、明かりも乏しかった。いつモンスターが出て来てもおかしくない雰囲気だ。 「多分、危ないのはこの先だと思うんだよね。こうやって地上から目視できる場所は、全然大丈夫だと思うよ」 「そうか……。じゃあ、この先には進まないように気を付けよう」  そうして、しばらくの間その階層で玉鋼を探し合ったのだが、思ったような収穫はなかった。というか、見つかるのは何の変哲もない石ころばかりで、玉鋼らしき鉱石はほとんどない。 「はあー……やっぱり全然採れないね。地表部分はきっと採りつくしちゃってるんだ」  と、兄が腰に手を当てながら嘆く。兄もまた、ただの石ばかり見つかるので辟易しているみたいだった。 「だよな……。じゃあ今日はもう帰るか?」 「ここまで来て手ぶらで帰るの? せめて一個くらい確保していこうよ」 「気持ちはわかるが、確保しようがないだろ。二人でいくら探しても石ころしか見つからないんだぞ」 「うん、だからさ……」  そう言って、兄はスタスタとどこかへ向かって行った。その先には、例の黒い穴があった。 「……って兄上、まさか更に下に降りるつもりじゃないだろうな?」

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