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第913話

「ちょっとだけなら平気じゃない? バルドル様も心配はしてたけど、ある程度集めるのは許容してたし」  ……などと油断全開の発言をするので、アクセルは慌てて止めた。 「いやいや、そういう問題じゃないだろ。バルドル様とホズ様があれだけ心配してたんだぞ。何かあったらどうするんだ」 「お前は心配性だね。だったらお前はここで待ってる? 30分しても戻らなかったら、助けを呼びに行くとか」 「いや、だからな……。俺は兄上に危ない真似はして欲しくないだけで」 「だから私は大丈夫だって。それに数メートル進むだけだよ。何も起こらないよ」  軽く笑い飛ばしてくる兄。本人は下に降りる気満々で、アクセルの言う事など聞くつもりはないようだった。  アクセルは溜息交じりに言った。 「……わかったよ、俺もついて行く。ただし、絶対30分以内で帰るぞ。それ以上はダメだ」 「はいはい、そうだね。じゃ、行こうか」  当たり前の足取りでさっさと穴の中に入ってしまう兄。  不安でいっぱいになりながらも、仕方なく兄についていった。  洞窟の壁は意外としっかりしており、ひんやりと冷たい。数メートルおきに明かりを灯すための燭台がかけられていたが、もう何年も火を灯した形跡はなかった。  やはり、ここから先はあまり人が立ち入らない場所みたいだ。 「なんかちょっとわくわくするね。肝試しみたいだ。何が出て来るかなぁ?」 「……あのなぁ」  いつもこちらのことを「危機意識が足りない」だの「能天気」だのと言ってくるけれど、兄もかなり能天気だと思う。 「おっと、早速それっぽいものを発見!」  兄が壁に埋まっている石をハンマーとタガネで掘り出し、こちらにそれを見せつけてきた。鈍い銀色に光る鉱石で、大きさ自体も兄の掌くらいある。 「……すごいな。本当にこんな大きな玉鋼が採れるのか」 「うん、しかもかなりずっしりしてる。質量も結構なものだ。これひとつでヴァルハラの玉鋼二つ以上に相当するんじゃないかな」

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