914 / 2296
第914話
そう言って兄は、手に入れたばかりの玉鋼を麻袋に入れた。
「……あ、ここにも」
アクセルも手のひらサイズの玉鋼を見つけ、ハンマーとタガネで慎重に掘り出した。これで二つ目だ。
「歩いて数分しか経ってないのに、もう二つ目か。地表とはまるで違うな」
「これだけ大きいものがボコボコ採れるのも、ちょっと不思議な気がするけどね。地表の玉鋼を採りつくしてしまった分、こっちの玉鋼もある程度は少なくなってると思ったけど」
「それは確かに……」
いくら危険とはいえ、歩いて数分くらいだったら誰でも入ってきてしまうのではないだろうか。そんなところにもまだ玉鋼が残っていること自体、不思議だ。
「……!」
その時、ズシン……と小さな地震のような振動を感じた。
最初は気のせいかなと思っていたものの、数秒後にもっと大きな地響きを感じて反射的に危機感を覚えた。
これは地震ではなく、恐らく何かの足音……。
「逃げろ!」
咄嗟に兄が叫び、考える間もなくアクセルは元来た道を全力で引き返した。後ろを確認する余裕はなかったが、何かに追いかけられていることは肌で感じた。
先程までは間隔の空いていた地響きが、ドドドド……という小刻みなものに変わり、しかもだんだん大きくなってきている。重苦しい殺気が背中に迫って来るのがわかる。
――なんだ……!? 何に追われてるんだ、俺たちは……!
理解が追い付かなかったけれど、立ち止まった瞬間死ぬであろうことは本能的にわかった。
とにかくアクセルは、地表の光が見えるところまで必死で走り続けた。地響きのせいで地面が揺れて走りづらくてしょうがなかったが、脚力を活かして一生懸命前へ進んだ。
――出口……!
ようやく光が見えてきて、アクセルはそこ目掛けて飛び込んだ。一瞬光に目がくらんだが、何とか脱出できた。
一拍遅れて兄も洞窟から転がり出て来て、二人共無事で心底ホッとした。
「……!」
ともだちにシェアしよう!

