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第915話
黒い穴の中から、何かがこちらを睨んでいる。こちらからはよく見えなかったが、シルエットが角ばっていて全体的に大きい――巨人らしき姿をしていた。地表の太陽がわずかに穴に差し込み、身体がキラリと反射する。
「あれは……」
姿をしっかり確認する間もなく、それはくるりと向きを変えてまた穴の奥に戻っていった。意外にも動きは素早かった。自分たちを追い払えて安心したというよりは、太陽から逃げて行ったように見えた。
「お前、怪我はない?」
兄がこちらに近づき、様子を窺ってくる。
アクセルはパタパタと服を叩いて、頷いた。
「平気だよ。兄上こそ、怪我してないか?」
「うん、大丈夫。ありがとう。玉鋼も何とか持ち帰れたよ」
「それはよかった。しかし、あれは一体何だったんだ? あんなのがいるなんて聞いてないぞ」
「あー……。私も昔、噂レベルにしか聞いた事がないんだけど……」
と、兄が顎に手を当てた。
「なんでも、アース神族の世界 の地下には『ガーディアン』がいるらしい」
「ガーディアン……?」
「地下を巡回している金属の巨人たちだったかな。侵入者を見つけると、手当たり次第に襲ってくるんだってさ。さっき問答無用で襲い掛かってきたでしょ? あんな感じ」
「……いや、『あんな感じ』じゃなくてな。というか、そんな怪物がいるなら何故前もって教えておいてくれなかったんだ」
兄は今思い出した風だったが、バルドルやホズは当たり前に知っていたはずだ。あんなに心配するなら、その時にガーディアンのことも忠告してくれればよかったのに。
「まさか知らないとは思わなかったんじゃない? ガーディアンのことは、アース神族の世界 では常識なんだよ、きっと」
「……そういうものなのか?」
「多分ね。……でも、せっかく来たのに二個だけかぁ。初めてなんだから、もっとサービスしてくれればいいのにな」
……と、兄が呑気に嘆き始める。アクセルとしては、命があっただけでもヨシとしたい。
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