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第916話

「まあいい。ひとまず、バルドル様の屋敷に戻るか」 「もう戻っちゃうの? あと少し探索したい気分なん……」 「……ちょっと何言ってるかわからないな。いいから戻るぞ。深入りは禁物だ」 「えーっ? そんなぁ」  拗ねる兄を無理矢理引っ張り、アクセルは発掘現場を離れた。  ――たった今ガーディアンに襲われたばかりだってのに、何言ってるんだ兄上は……。  やはり兄の方が余程能天気なのでは……と思わざるを得ない。自分の腕に自信があるからなんだろうが、生憎アクセルは、命からがら逃げ出した直後にまた洞窟に侵入する度胸はなかった。  やれやれ……と溜息をつきつつ、バルドルの屋敷に戻る。一応、ヴァルハラに戻る前に報告するよう言われているのだ。 「あっ、おかえり! 随分早かったね。怪我はしなかった?」  帰った途端、バルドルがすっ飛んできた。すぐさま「ちょっと休憩して行きなさい」と応接室に通され、そこでお茶を出される。  裏庭で鍛錬をしていたらしきホズも、遅れてやってきた。 「なんだ、元気そうじゃないか。腕一本くらいなくなっているかと思ったぞ」 「そんな、ホズ様……ちょっと洞窟に入っただけで腕一本取られたらキリがないですよ」 「ということは、ガーディアンには遭遇せずに済んだのか。運のいいことだ」 「いえ、思いっきり遭遇しました。何とか逃げ切れましたけど、ちょっと危なかったです」 「えっ? 彼らと遭遇したのかい? それでよく無傷で戻ってこられたね……」 「出口に近かったおかげかもしれません。……というかバルドル様、ガーディアンのこと知ってたならもっと早く教えてくださいよ」 「ごめんよ。まさか知らないで出掛けているとは思わなくて。というか、それで無傷で戻ってこられたってのは、やはり相当運がいいよ」  お茶を飲みながら、バルドルがしみじみと呟く。 「これも、巫女の血筋ならではの『強運』なのかな」

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