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第917話
「えっ? どういうことですか?」
「あの予言の巫女もね、かつてはかなりの『強運』を持っていたんだ。誰もが目を顰めるような振る舞いをしていても、いつもギリギリのところでトラブルを回避していたからね。まあ、最終的には透ノ国に追いやられてしまったわけだけど……運がよかったのは本当だよ」
「…………」
「運に関しては、自分の力ではどうにもならない。強運が備わっているなら羨ましい限りだ」
「はあ、そうですね……」
アクセルは曖昧な返事しかできなかった。
――強運か……。そんな風に思ったことは一度もないんだけどな……。
もし本当に運がいいのなら、罠にかかる前に自力で回避できそうなものだ。自分がここまで生きて来られたのはほとんどが兄の助けによるもので、自分一人だったらあっと言う間に犬死していたのではないかと思う。
「……どうでしょうね。私自身は、そこまで運がいいとは思いません」
兄が苦笑しながら答えた。
「弟は強運かもしれませんが、私は運のよさに助けられたことはほとんどありません。どちらかというと運には見放されている方です。なので、自分の実力でどうにかするしかありませんでした。巫女の血筋なんて関係ないですよ」
「兄上……」
「それでは、我々はこれで失礼します。近いうちにまた遊びに参ります」
一方的に離席してしまったので、アクセルは慌ててバルドルに頭を下げた。そして兄を追いかけた。
「兄上、待ってくれ」
「うん? どうしたの?」
「どうしたのはこちらの台詞だ。どうしたんだ、いきなり? あんな風に出て来てしまうなんて、らしくないじゃないか」
「そう? 別に何もないけど。これ以上長居することもないでしょう」
「それはそうかもしれないが……」
「さ、ヴァルハラに帰ろう。ピピちゃんだって待ちくたびれているよ」
スタスタと世界樹 を通っていく兄。その間、兄は一言も喋ってくれなかった。怒っているのとはまた違うが、決して上機嫌ではなかった。
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