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第918話
「せっかくだからお前、これ使って武器の修理しておいでよ。きっと切れ味が劇的にアップするよ」
「あ、うん……でも兄上の分が……」
「私はいいよ。武器もそんなに壊れないし。お前にあげる」
「…………」
麻袋ごと玉鋼を押し付けられ、アクセルは視線を落とした。二個分の重みがずしりと手に加わった。
「兄上は……」
「うん、何だい?」
「兄上は、いつも俺に与えてばかりだな……」
「? 何の話?」
「兄上が運に見放されているのは、もしかしたら……俺みたいなお荷物が常に側にいるからかも……」
独り言のようにそう呟いたら、兄は片眉を上げて訝しんだ。
「お前、さっきから何言ってるの? またネガティブモードに入っちゃった?」
「いや、バルドル様の屋敷で言われたことを考えててな……。俺たち、巫女の息子ってことになってるけど、彼女の姿形からすると明らかに兄上の方が血が濃いんだよ。石碑の文字を読めるのも兄上だけだし……」
浮気性なところも似ている、と言いかけて口を閉ざした。これを言ったらまた喧嘩になりそうだ。
「とにかく、兄上の方が巫女に似ているのは事実だ。だとするなら、『強運』も兄上の方に引き継がれていないとおかしい。だけどこうして隣で兄上を見ている限り、ラッキーな事より苦労している場面の方が多く目に入るのもまた事実で……」
「??? 話が見えないんだけど……」
「いや……それでふと思ったのは、兄上が運に見放されているのは、俺が兄上の分の強運を吸い取ってしまうからかな……とか。俺は確かに人よりちょっと運がいいことが多いけど、その運がもともと兄上のものだとしたら、何だか申し訳なくて……」
そう言ったら、兄は呆れたように首を振った。深々と溜息をつき、くしゃ、と髪を掻き上げる。
「はー……お前、そんなこと考えてたの? 全く根拠のない妄想じゃないか」
「……すまない。一度気になると、ついいろんなことまで考えてしまって」
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