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第919話

「呆れた……。何でそんなくだらないことで悩むのか理解できないよ。というか、運の良し悪しなんて遺伝するわけないじゃない。お前が私の運を吸い取るなんてことも起こらないし、悩むだけ無駄だね」 「そうかな……。俺のせいで兄上の運気が落ちているのは確かだと思うんだけどな……」  そう言ったら、兄はますます呆れた顔になった。そしてこちらに近寄り、両手で顔を挟んできた。 「あのね……お前はほとんど知らないだろうけど、お前が生まれる前の私は本当に酷かったんだよ。家庭環境も悪い、素行もよくない、知り合いにも敬遠される……食う物に困って盗みを働いたことも、一度や二度じゃないからね」 「それは……両親がいないんじゃ、仕方なかったのでは……」 「言い訳なんて何とでもできるさ。まあとにかく、今思えば立ち振る舞いは最悪だった。それがガラッと変わったのが、お前が来てからだよ。お前を養うために、知り合いに頭を下げて食べ物を分けてもらったり、畑仕事を手伝う代わりに子育ての方法を教えてもらったり……まあ、いろいろやりました」  やっぱりめちゃくちゃ苦労してるじゃないか……と、喉元まで出かかった。これのどこがガラッと変わっているのか、よくわからない。  すると兄はにこりと微笑んで言った。 「でも、やんちゃするのはもうやめた。私一人ならいいけど、私の影響でお前まで悪い子になっちゃったら困ると思ってね。食べ物なんて本当はお店から盗むこともできたのに、ちゃんと店番をした報酬としてもらうことにしたんだよ。戦士としての鍛錬もほとんど参加したことなかったけど、毎日欠かさず参加するようになった。私が弱かったら、いざという時にお前を守れないと思ったから」 「…………」 「そういう真っ当な生活を続けていたら、いつの間にか助けてくれる人も増えていったよ。これを運気と言っていいかわからないけど、お前が来てから状況が変わったのは確かだ。お前は運を吸い取るどころか、私を正常な状態に戻してくれたんだよ」 「兄上……」

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