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第946話
「でも、そういう兄上はヴァルハラに来て何十年も経ってないだろ? せいぜい十年ちょっとじゃないのか?」
「あー、そうだったかな。ずっと見た目が変わらないから、年月の感覚がなくなっちゃってさ」
……なんだか、適当にごまかされている気がするのだが。
「まあとにかく、お前はちゃんと強くなってるよ。そうやって唐突にネガティブになるのやめなさい。次の死合いで、また実力を発揮してくるといいさ」
「う、うん……。次の死合いは来月だけどな……」
今月はもう死合いも仕事も入っていないので、比較的自由な時間がとれる。
雑用をこなしつつ、明日からまた頑張ろう……と、アクセルは食事を平らげた。
その後、使った食器や鍋を丁寧に洗って、何事もなくベッドで眠った。
あれだけやらかした後だから、さすがの兄もこれ以上手を出してくることはなかった。
***
翌日、アクセルはノコギリと玉鋼を持って鍛冶屋を訪ねた。
この鍛冶屋は死合い後に破損した武器や防具を修理してくれる場所で、戦士 ならほとんどの者がお世話になっている。
店主そのものは戦士 ではなく、武器作りが得意な小人族の一人なんだそうだ。神々が所有している神器――オーディンの神槍・グングニルやトールの雷霆・ミョルニル等も、小人族が提供したものだという。
詳しいことはあまり知らないけれど、武器作りの腕は確かだ。
「こんにちは」
アクセルは早速、庭で剣をゴシゴシ研いでいる店主に声をかけた。
パッと見は若めの男性に見えるが、耳の先が鋭く尖っている。この時点で、自分たち戦士 とは違う存在なのだということが窺える。
「あのー……」
しばらく待ってみたが、店主は一心不乱に剣を研いでおり、アクセルの存在に気付いていない様子だった。声をかけたこともわかっていないようだ。
――はぁ……この人、集中すると何も聞こえなくなるんだよなぁ……。
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